戦国新報
 
 
平成8年 前期
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本当の器用というのは、他人の思っている
逆に出ることだ
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 信長があるとき部下に息子の信忠のことを聞いた。「この頃、信忠はどうだ?」 部下は「信忠様はたいへん器用でございます。信忠様は、訪ねて来る方々の気持ちをよくご存知で、その人が欲しいと思う品物を与えております」と答えた。
 信長は笑った。「他人が欲しがる物を与えるのは決して器用ではない。それは逆に不器用というものだ。他人が欲しがっていない物を与える、つまり意表をつく行動に出るのが本当の器用というものだ。そうでなければ合戦の時にまったく役にたたない。この合戦の時には応援が来るかなと思う時に応援が来ず、ここは応援がなくても大丈夫だなというところに応援を出す。そんな意表をついた作戦は、戦場では必ず起こるものだ。それに対応するにはふだんからそういう心掛けを持たなければ駄目だ。だいたい大将というのは、部下に胸の内を読まれるようでは大将たる資格はない」と言った。
 その点、秀吉はまさに、相手に手の内を見せないとうことにかけては天下一品の才能があった訳である。
【文:高田 金道】