戦国新報
 
 
平成11年 後期
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サル知恵と馬鹿にされた男の勇気
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 組織が危機的な状況になった場合、危機を脱するためには誰かが矢面に立たなければならない。しかし大抵の人間は尻込みしてしまうような気がする。そんなとき「組織の防波堤になってやろう」と決断し、その役目を買ってでた人は、回りの人間の見方が変わってくるような気がするし、自分の存在をアピールできる最大のチャンスのような気がする。
 戦国の世、信長が越前、朝倉義景を打つために出兵した時、妹が嫁いで同盟を結んでいた浅井長政が信長に反旗をひるがえし、背後から攻められ袋のネズミとなり「絶体絶命」のピンチになった。退却しなければならない、しかし誰かが「しんがり」を努めなければならない。「しんがり」は味方の退却を助ける重要な役目であり、当然命がけの仕事。誰も手をあげる武将はいなかった。ところが「私にこの役目を」と決死の覚悟で手を上げたのが、秀吉であった。信長は涙を流し「サル。まかせたぞ。絶対に死ぬなよ」と言い残し疾風のように逃げ帰った。秀吉三十四歳の時である。その後、信長の秀吉に対する信頼は他の武将達よりも厚くなった。
 不況の世の中、組織の中で防波堤になってやろうという知恵者が多くいることによって、この不況を乗り越えることができるような気がする。だがなかなかむずかしい。
【文:高田 金道】