戦国新報
 
 
平成9年 後期
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苦しい時の神頼み
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 人間は窮地に立たされると普段神仏を信じない人でも、超自然的な力にすがりたくなるようである。そして何かの暗示を受けると、人間業とは思えないことをやってのける時がある。
 こんな人間心理を巧みに利用して快勝を治めたのが信長であり、その代表的な戦が「桶狭間の戦い」である。信長は今川義元の大軍団に奇襲をしかける決戦の前に、部下を連れて「熱田神宮」に参拝している。神前に進んだ信長は戦勝祈願の文を読み上げ神殿の奥深くに入り手を合わせた。その時あれよと思う間に一羽の白鷺が頭の上をかすめて飛び立ったのである。「見よ…者ども…」信長は朝日を浴びて大空に羽ばたく白鷺を指さし「熱田の神が我らに勝利を与えてくれた」と叫んだ。それまで不安を消すことのできなかった連中も必勝を確信し「勇気百倍」で決戦場へ殺到した。神殿内での白鷺の出現はおそらく信長のしかけであったに違いない。
 生死の土壇場にのぞむ部下達の何物にもすがりつきたい心理を巧みに利用し、信じられないほどのエネルギーを引きだすことに成功したのである。
 不況な世の中、会社の神棚に毎朝祈願することも大事なことであるが、やはり努力に勝るものはないような気がする。だが、なかなかむずかしい。
【文:高田 金道】