戦国新報
 
 
平成7年 前期
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がまんする事によってチャンスがある
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 本能寺の変で信長が光秀に討たれ、光秀は山崎の合戦で秀吉に討たれ、秀吉の威勢はにわかに高くなった。が、心おだやかでないのが織田家の筆頭重臣、柴田勝家である。織田家の跡目相続を決すべき大事な清州会議の場で緊迫した場面が起こった。
 勝家は秀吉をじろりと見ながらひやかした。「昔は『猿々』と呼び腰をもめ、肩をもめと命じ貴殿はハイハイとよくもんでくれたもんだ。だが今は織田家の羽柴筑前守秀吉という大名となった。昔の『さる』がなつかしい」と言い終わると大口で笑った。
 だが秀吉は少しもあわてず、にこっと笑って「仰せのごとく昔がなつかしい。何で過去のことを忘れましょう。さ、どうぞ横になって腰などおもみ仕まつろう」秀吉はそでをたくしあげ平然ともんでやった。
 ほかの武将達はなんでこんな大事な会議の時に秀吉をひやかしたのか?昔はともかく今は織田家五軍団長の一人である。まして亡君の仇をとった勲功第一の人である。その秀吉に対し何という非礼だろうか?だがそれにひきかえ、なんと秀吉のさわやかさ。武将達は秀吉の心の大きさを知り、ことごとく秀吉に味方したのである。清州会議は秀吉の勝ちとなった。
 秀吉にとっても意外な出来事であったが、冷静に事をさばき我慢をしたのである。衆心を得てチャンスを呼びこんだ点、さすが名人芸であるようだ。
【文:高田 金道】