戦国新報
 
 
平成9年 前期
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小さな気配り
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 夏になると吹き出す額の汗をハンカチでぬぐいながら営業に出歩くのは大変であるが、訪問先の会社で「暑いでしょ」と笑顔で冷たい麦茶を出してくれる人がいる。こういう時の冷たい麦茶ほどおいしく感じるものはない。「なんだ麦茶か」と思う人もいるかもしれないが、コップ一杯の冷たい麦茶を出せる人と出せない人では相手に与える印象はかなり違うような気がする。
 戦国の夏の暑いある日、秀吉が鷹狩りに出ての帰り道。喉がかわき小さな山寺に立ち寄った。「誰かいるか。茶を一服たててくれ」と言うと、十三、四歳位の小僧が出てきて、大きな茶わんに八分目のぬるいお茶を差し出した。秀吉がおかわりを催促すると、今度は量は半分にも満たないほどで少し熱いお茶を出してきた。飲み終わった秀吉はもう一杯おかわりをした。すると今度は小さな茶わんに熱いお茶がでてきた。「この小僧なかなかやりおるわい」と感心した秀吉は、寺においておくのは惜しいと言って自分の家来にしてしまった。この人物が、関ケ原の合戦の中心人物、石田三成である。
 どんな小さなことでも相手に感謝の気持ちで接し、相手が何を求めているのか考えるよう心掛ければ、必ず気持ちは伝わるような気がする。だが、なかなかむずかしい。
【文:高田 金道】