戦国新報
 
 
平成8年 前期
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ばかなふりして、男をあげる
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 摂津の荒木村重が信長に謀反を起こした時、秀吉は単身で村重の城に出向いて説得にあたった。村重の部下達は秀吉を殺すように進言した。村重は「おぬしを殺せという部下がいる」と秀吉の様子をうかがった。すると秀吉は「ほう剛気な者よ。ぜひ顔を見たいものだ」とその部下を呼んでもらい、悠然とした態度で自分の刀を引出物として与えた。これには村重も驚き「バカなことはやめなされ」と止めたが、秀吉は「バカなこともいいではないか。わしはもともとバカ者だ。刀などに頼む気持は毛頭ない」と答えている。村重にとって、いずれは戦場でまみれる相手なら、今、殺してしまった方が有利である。もちろん秀吉もそれは百も承知である。村重は胸を打たれ、秀吉を無事に帰したという。
 同じ功績をあげても、評価される人とされない人がいる。それはその人の人間としての魅力があるかないかで、明暗が分れる。バカなことして男をあげる秀吉の処世術には、今の人間も学ぶべきものがあるのではないだろうか。
【文:高田 金道】