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明智光秀が昔、浪人をしていた頃の話である。同志を集めて会合をしなければならないことがもちあがった。せめて会合にはどんなに貧しくとも、酒とめしぐらいは準備しなければならない。が、その時の光秀は一文無しである。どうしようかと思案していると、妻が、どうか心配せずに会合は予定通り開いてくださいと、笑顔をみせて言った。会合は十分なもてなしができて、みんな大満足で帰って行った。
光秀はあとあと心配になって妻にたずねた。「金の工面はどうしたのだ」妻は黙って髪を束ねていた手拭いを解いてみせた。長い黒髪がなくなっていた。
当時、女の命と言われていた髪を売って、光秀の妻は酒肴を整えたのである。
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【文:高田 金道】
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