戦国新報
 
 
平成5年 前期
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「やけくそ精神」も努力次第によっては
自分を大きくする
すすむ
 人間の度量を育てる最高の肥料は「やけくそ精神」である。徳川家康は「知恵や小細工で物事はどうなるものでもない。最後にものをいうのはやけくそだ」と言っているだけあって、やけくそ精神の権威である。
 三方ケ原の合戦がいい例である。武田信玄の率いる甲州軍と大激戦を演じたが、壊滅的な打撃を受けて敗走した。味方軍がメチャクチャに崩される中をまるで死神にとりつかれたように駆け回る。あの慎重派家康とは別人のような猛戦ぶりだった。やっとのことで浜松城へたどりついた家康は、「門を閉めるな、大きく開け放しておけ。庭中に、門外にかがり火をたけ」と命じ、自分はお茶漬けをたいらげ、大いびきをかいて寝てしまった。肚をくくった壮烈な行いであった。
 合戦は徳川方の惨敗におわったが、家康には輝かしい戦歴となった。信長も一目おき、諸大名から「海道一の弓取り」と畏怖されることになった。
【文:高田 金道】