戦国新報
 
 
平成10年 後期
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小さな気配り…
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 毎日暑い最中、ハンカチで汗をふきふき外回りの営業は大変である。訪問先の事務所のドアを開ける。すると「いらっしゃいませ」と言って一杯の麦茶を差し出してくれる。こういう時の麦茶ほどおいしく感じられるものはない。「何だ麦茶一杯くらい」と思う人もいるかもしれないが、その一杯の冷たい麦茶を出せる人と出せない人では、相手に与える印象はまったく違うような気がする。
 秀吉が近江十万石の大名になった時、国を視察しながら、ある山寺に立ち寄った時の話である。「誰かいるか。茶を一服たててくれ」と言うと、ひとりの小僧が大きな茶碗に七分目ほどのぬるいお茶を差し出した。秀吉はおかわりをすると、今度は茶碗半分にも満たないほどで、前よりも熱いお茶を差し出した。秀吉はそれを飲み干すと、試しにもう一度おかわりをした。すると今度は小さな茶碗にうんと熱いお茶を差し出した。「この小僧なかなかやるわい。寺においておくには惜しい」と言って自分のそばに召し抱えた。それが後の石田三成である。小さな気配りが大出世につながったのである。
 今の不況な世も小さな気配りで大きな仕事が舞い込んでくることもあるような気がするが、なかなかむずかしいことだ。
【文:高田 金道】